So-net無料ブログ作成

第115回 日本小児精神神経学会「発達障害と地域療育」参加レポート [学会レポート]

115photo.jpg

1.日時・場所  2016年6月25日(土)~26日(日)  横浜・関内ホール

2.プログラムと概要・感想
[5月15日(土)]
(1) 一般演題A ~発達支援(1)~
A-1 発達障害を主訴に高アンモニア血症がみられ門脈大循環シャントと診断された2歳3か月男児例:小児科医による器質的疾患除外の重要性…茨城東病院の小児科医が、北茨城市の発達障害健診で「言葉の遅れと視線が合わないこと」と紹介された2歳3か月男児を診察したところ、門脈大循環シャント が発見されたとのこと。ASD児の約1割に器質的疾患が認められているそうで、小児科医でもわからないことがあるようだ。
A-2 未就学児への早期支援を目指した発達障害診断システム改定の試み…発達障害を疑って受診しようとしている児童の待期期間が長期化しているため、発達障害の初診外来と一般の初診外来を分け、発達障害初診外来では相談員の問診をすることにしたところ、受診待機期間が平均57.4日から26.4日へと約1か月間短縮された。ただし、医師の診察時間短縮のため説明時間が不十分になることが課題。工夫次第で待機期間短縮も対策できるものであるようだ。
A-3 当診療所における開設後1年間の受診者の現状…全受診者104名、身体14名、ASD50名、ADHD5名、その他2名で、発達障害・情緒障害が84.6%。小児科医でも精神疾患や情緒的な問題への理解が必要だという考察。(理解の無い小児科医が多いのだろうかという疑問)
A-4 静岡医療福祉センターにおける発達障害児の年度別推移…新版K式発達検査のカルテから調査し、平成18年と27年の割合を比較したもの。初診年齢が低くなり、早期受診が進んだと言えるが、疾患別では、発達障害児が49%から78.5%と大幅に増加した。さらに知的発達の無い児が増加しているため、親支援や地域との縦横連携の強化が必要。
A-5 精神科病院に設置されたこども発達センター:開設1年後の現状と課題…一宮市は財政が困難だったため、既存の精神病院の中に子ども発達センターを作った(民間の費用で保険診療が可能であることがメリット)が、1年間の初診人数が1,400人を超え、受診人数が想定を大幅に上回ったため、持続可能な体制を整えることが急務。
A-6 横浜市西部地域療育センターにおける学齢新患の特徴-なぜ幼児期に受診しなかったか-…学齢期になってから初めて受診するケースが多いのはなぜかということについて、幼児期には適応しており何も問題を感じていなかった、知的障害がないので発見されなかったが学齢期になって顕在化した、家庭機能に脆弱性があり適切な受信ができなかったなどと考察。

(2) 特別講演「合理的配慮」の視点から見た発達障害と特別支援教育
柘植 雅義 筑波大学人間系 障害科学域知的・発達・行動障害学分野
「障害」という言葉は日本では1種類しかないが、インペアメント、ディスアビリティ、ディスオーダー、ハンディキャップというように国や地域で言い方が違い、その概念も違う。それに対して「合理的配慮」という言葉は全世界共通で、サービスを受ける側と提供する側との共通言語である。世の中には誤解と偏見による障害者差別がまかり通っている(タクシーが障害者を乗車拒否するなど)が、障害者差別禁止法により、違反行為になる。支援は手帳の所持の有無には限らない。一人の障害者のための配慮ではなく、誰にとっても利用しやすい環境を作るなら、それは、個別的配慮ではなく、基礎的環境整備になる。学校での基礎的環境整備を進めるには、現在の教師の認識に差があり、それをなくしていく必要がある。
参考:インクルDB(国立特別支援教育総合研究所) http://inclusive.nise.go.jp/
○その他、書籍や記事の紹介多数。スピーディーで面白いお話だった。

(3) 一般演題B ~発達支援(2)~
B-1 学校訪問を契機に、診療が大きく展開した2例…診断した子どもの学校を、医師が自発的に訪問し、問題が解決した例を紹介。(母親の支援体制、担任教師への指導・支援を強化など)なぜ解決したのか具体的な説明は無し。関係機関からの依頼があったわけではなく、どういう仕組みで訪問したのかも疑問。
B-2 二次障害を予防する学校教育の改革-医療従事者と教育関係者の連携に基づく学校支援-小学校の授業で「おとなりさん」同士が支え合う共同学習の手法を取り入れたところ、子どものイライラ感や疲労感が減り、保健室利用者が減った。医療従事者が参加した教科指導改善で、二次障害の予防に成果があったという報告。
B-3 幼児期に運動プログラムを経験した児童の小学校での行動特性について…平成25年度から3年間、運動プログラムを実施した学年、実施しない学年の追跡調査をし、実施した学年ではクラスの纏まりや落ち着きが見られ、実施しない学年では問題を有する児童の割合が増えた。(参加した子どもに不利益があるような、こんな実験やってもいいの?)
B-4 発達外来に通う子供の事故 その特徴…PDD、ADHDなどの診断のある子どもの受傷時の原因や状況を調査し、衝動性の高さ、視覚転動性の高さ、不器用さ、視覚認知の課題から事故につながったと考えられるため、保護者には日ごろから事故予防を啓発していく必要がある。
B-5 小児期に医療機関を受診した広汎性発達障害者の就労状況-親へのアンケート調査から-…18歳以上のPDDの就労状況を調査し、一般就労21%、障害者枠就労14%、福祉的就労33%。最終学歴別では支援学校卒が一番高く、高等教育を受けたものよりも就労支援が手厚いと考えられる。

(4) 一般演題C ~発達支援(3)~
C-1 広汎性発達障害を併存した場面緘黙児一事例に対する言語聴覚療法の経過…言語聴覚士が関わって、場面緘黙が改善した事例の紹介。
C-2 離島での地域療育について-病院STの立場から-…小豆島の病院で、発達障害や言語発達遅滞の子どもに言語聴覚士が関わっているが、離島では制限があるため、行政も巻き込んだシステム整備が必要であるという提言。
C-3 学習の困難を主訴に受診し音読検査を施行された症例の臨床的特徴…ディスレクシアの子どもの症例について。ASDやADHDとの併存も考慮する必要がある。
C-4 スタージウェーバー症候群の発達予後に関する検討…スタージウェーバー症候群は神経皮膚症候群の一つで、約40%に知的障害や多動、情緒障害が見られるため、心理社会的側面からの支援が必要である。
C-5 全国の児童相談所における療育手帳判定に関する調査…療育手帳制度に法的な裏付けがないので、全国69自治体の228か所の児童相談所にアンケート調査を実施し、判定にどんな尺度を用いているのかを調べた結果、自治体間の差異が非常に大きく、不利益、混乱、不平等につながると推測された。
C-6 自閉スペクトラム症の子どものCHC理論 に基づくWISC-Ⅳプロフィールの検討…ASDと診断された子どもについて検討し、ウェクスラー検査ではASDの認知障害の多くは説明できないが、CHC理論に基づいたWISC-Ⅳ解釈では、流動性処理と視覚処理、ワーキングメモリーと短期記憶を分けてとらえやすいので、ASDには有用性があると思われる。

(5) イブニングセミナー『道なきところに道を-小児療育相談センターにおける発達障害児への治療-』(ヤンセンファーマ株式会社共催)…聴きませんでした。

[5月26日(日)]
(1) 基調講演『地域療育における医療の役割:支援に役立つ診断とフォロー』
原 仁  社会福祉法人青い鳥 小児療育相談センター
発達障害の診断には、インフルエンザの診断キットのような決め手があるわけではなく、医師の観察する目と聴く力に依存する。
発達障害の診断の経験は、先輩医師の診療に陪席し、先輩医師の診察を真似し、とにかくたくさんの子どもに会って自分のスタイルを確立していくしかない。演者が30年余りの発達障害医療の中で行ってきたのは、神経学的微兆候(ソフトサイン)を診ること。ただし、ソフトサインが有用なのは、4~5歳から11~12歳児まで。この年齢の子どもたちを半年から1年ぐらい診療を続けていき、発達の変化を観察する。経過評価によって、一度確定した診断が変更されることもありうる。
○発達障害の診断が医師の能力や価値観に左右されているとは、驚き。ソフトサインが役に立つと言っても、それも医師の能力に左右されると思われる。

(2) 一般演題D ~低出生体重児・乳児~
D-1 極低出生体重児と自閉スペクトラム症児の発達特徴の比較-マッチドケースコントロール研究-  
D-2 極低出生体重児の行動上の問題と知的能力の特徴
D-3 極低出生体重児におけるビジョントレーニングの有効性
D-4 ASDへの早期支援をめざした4か月児健診での取り組み(第1報)-赤ちゃん動作テストの有効性について-
D-5 ASDへの早期支援をめざした4か月児健診での取り組み(第2報)-事例を通した支援の検討-

(3) 教育講演『発達支援における心理の役割』
辻井 正次  中京大学現代社会学部
発達障害の診断には、唯一医師の診断が必要だが、それでは医師がパンクしてしまう。発達障害の支援は(一部のADHDを除いて)薬物治療ではなく、子育て支援、保育(幼児教育)・教育・福祉であり、それらの現場の人たちが診断と支援のためのアセスメントツールを利用できることが必要。例えば、保育記録35項目の評価尺度から、7つの要素に分類して判断し、さらに小学校に情報をつなげるなど、保育士ができる行動評価。必要な発達支援を実践するために、心理専門家がエビデンスのある支援技術を提供していくことが求められる。
その他、「そのうち何とかなる」「愛情をもって育てれば」は、保育者のロマン。社会モデルのはずなのに、いまだに療育センターに任されているのはおかしい。放課後デイサービスとか急激に増えているけど、玉石混交、もっとレベルを上げていく必要がある。インクルーシブな支援は、現場の工夫や理念に任されるだけでなく、普通の保育士が実践できるようなプログラムが必要。厚労省が事業化しているペアレントプログラムは、認知行動療法に近い。
参考:「SPACE(共同注意のスキルを測る検査)」「JASPER」(現在開発中)
○前公演の原先生に真っ向から反対するような内容。誰もが客観的に判断できるような検査は必要だと思う。どんどん批判の言葉を発言する面白い先生。

(4) 一般演題E ~愛着・レジリエンス・不適応~
E-1 愛着形成に焦点づけた早期環境調整支援の効果について  
E-2 レジリエンスを認めた症例を考える
E-3 子どもの心の診療を困難にする家庭基盤の脆弱さについての検討-ひとり親家庭の分析を中心に-
E-4 発達障害の子どもに対する2Eの観点からのアプローチ
E-5 非行少年の表情識別能力についての検討Ⅱ
E-6 臨床家からみたASD当事者に生起している心身症との共存状態の検討

(5) 一般演題F ~観察と介入~
F-1 保護者支援におけるペアレント・プログラムの効果-1-発達に困難のある子どもの保護者へのプログラムの効果検討
F-2 保護者支援におけるペアレント・プログラムの効果-2-研修参加の支援者および運営面における効果
F-3 当院における個別ペアレントトレーニングの試み
F-4 統合保育における自閉症児の対人関係の広がりと行動の変化についての検討
F-5 行動分析に基づいた介入を行った思春期女子ASDの2事例
F-6 「小児の精神と神経」は何を議論してきたか

http://www.jsppn.jp/115/115info.html
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

ビバ!インクルージョン 私が療育・特別支援教育の伝道師にならなったワケ [参考図書]


ビバ! インクルージョン: わたしが療育・特別支援教育の伝道師にならなかったワケ





柴田靖子 著    現代書館 発行

著者は、水頭症の二人のお子さんを持つお母さん。
二人の子どもたちは、どちらも、自力で立てず、移動できず、手指が不自由で、視力も弱く、言葉を発して意思を伝えることができないのは同じだが、お姉ちゃんは特別支援学校に入学し、弟くんは地元の普通の小学校に入った。
お姉ちゃんの特別支援学校での体験から、療育や特別支援教育に疑問を持ったこと、本当の意味でのインクルーシブ教育がどんなものかということを教えてくれていると思う。

一般企業で障害者雇用業務に就いている時代には、ある程度、障害者に関わる法律も知っているつもりだったけど、仕事から離れている10年ほどの間に、法律はどんどん変わっていて、大学院で障害科学を学び始めてから、その変化に少なからず驚いたわけだが、その変わり方は、障害のある当事者にとって、望ましいものではない。

大学院で学び始めた当初に知って、これからどんどん良くなると期待を持ったのが、「インクルーシブ教育」で、障害のある人も無い人も、同じ環境で学び、一緒に生活できるようになるなんて、素晴らしいけど、きっと実現するまでには大変な困難があるんだろうと思った。

同時に、特別支援教育についても少しずつ勉強してきたが、この大学で教えてくれている特別支援教育のあり方は、とても納得できるもので、子ども一人ひとりに向き合って、できることとできないことを明確にし、できることを伸ばしてあげるし、言葉を発しない子どもにも、いろんなしぐさや視線や微妙な表情の変化で意思をくみ取る努力をするし、その意思を尊重するように努めるとか、こんな学校なら、きっと、どんな子どもも自分の能力を最大限に生かせるようになるんだろうなあと考えていた。

でも、この本の著者が出会った特別支援教育は、全く違っていた。
できないことをできるようにする訓練、できるようにはならないのに、子どもに苦痛を与えるだけの訓練や、子どもたちの意思を無視した生活、意思を持たないようにさせるための場所が、特別支援学校のようだった。

私が大学で学んでいることは、ある意味、理想であり、幻想であって、現実は違ったものなんだろうと思う。

一方、一緒に保育園で育った友だちと同じ小学校に上がった弟くんが体験したことは、まるで違っていたわけで、その小学校は「万人のための学校」に成長できそうだという。
弟くんを取り巻く人たちも、日々、経験し、学び、障害のある人たちと場を共有することができるようになっているのだろう。

障害者とそうでない人たちが、分けられているから、出会う機会がないから、話したり一緒に過ごしたりする機会がないから、なかなか理解し合うことができないんだと思う。
であれば、分けずに、一緒に過ごすことが、一番大切なことだろう。

それが実現できるなら、これからのインクルーシブ教育にはとても期待が持てる。
そのためには、まず、現場の先生たちに、もっと知ってほしいことや学んでほしいことがあるから、そうそう簡単にはいかないのだと思うが。

二人のお子さんを別々の学校に入学させたことで、いろいろな違いが分かったことや、様々な体験とその折々の気持ちを、このような本に記してくれたことは、大変な感謝である。

できれば、より多くの人に、この本を読んでいただきたいものである。


ビバ! インクルージョン: わたしが療育・特別支援教育の伝道師にならなかったワケ


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学校