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発達の指標としての「心の理論」課題 ~実行機能の役割に焦点を当てて~ [心の理論]

愛知教区大学研究報告書,56(教育科学編),pp,87~94,March,2007

竹内謙彰 学校教育講座(心理学)

心の理解の発達において実行機能がどのような役割を果たしているかに関し、近年の実証研究の成果を踏まえ、発達上の説明について整理を行おうとする試み。

著者は、立命館大学応用人間科学研究科教授 竹内謙彰(発達心理学、自閉症スペクトラム障害児・者の特別なニーズと支援)。愛知教育大学研究報告(教育科学編)2007年3月に掲載。
近年の実証研究の成果を踏まえ、発達上の説明について考え方を整理したもの。引用文献は38件、そのうち日本人によるものは9件。本文は、大きく2つの論点に纏められている。
(1) 「心の理論」課題は発達の指標たりうるか
(ア) 「心の理解」と「心の理論」…「心の理解」は欲求・感情の理解の獲得が先であることが報告されているが、「心の理論」は「誤信念の理解」に焦点を当てているものに偏っている。
(イ) 誤信念課題は心の理解の発達を見るのに適した課題か…誤信念課題の代表は、マクシ課題とスマーティ課題。これらは発達の指標として適切か否かの検討をする。
A) 課題通過時期の問題…カナダ、インド、ペルー、タイ、サモアなど、比較文化的研究でも、誤信念課題の解決率は5歳児で平均正答率85%となり、発達の指標として使用しうる。
B) 自閉性障害との関連…健常児が直感で誤信念課題を解決するのに比べ、自閉症児は直感ではなく、言語論理的理に問題を解決し、「心の理論」を形成している。
C) 誤信念課題は発達の指標たりうるか…健常児と自閉症児とは、異なる方略によって解決可能であり、自閉症の鑑別診断では有用ではないが、発達の大まかな指標としては有用。
(2) 「心の理解」の発達と実行機能の関わり
(ア) 「心の理解」の発達についての説明…実行機能は、プランニング、抑制制御、自己調整、認知的柔軟性などを含む。心の理解の発達に対する実行機能の関与は、明確ではない。
(イ) 関連を示唆する実証研究…実行機能と心の理論の関連を示した研究3件、実行機能が心の理論に先行するという研究3件、関連を疑問視する研究を3件紹介している。
(ウ) 両者はどのように関連しているのか…実行機能と心の理論の獲得の間に何らかの関連があることは間違いないが、抑制制御、認知的柔軟性、プランニングなどのどれが重要なのかは、さらにデータの蓄積が求められる。
 以上を踏まえ、筆者は、心の理解の発達にとって実行機能だけが重要な役割を持つのではないと考え、実行機能は思考や行動を調節する機能を持つが、心的な内容自体を作り出す働きを持たず、誤信念課題で測定される一定にまとまりをもった心的プロセスを、要素に分解するアプローチでは、「心の理解」の本質を見誤るのではないかと考察している。
 さらに、「心の理論」課題と呼ばれる誤信念課題は、そのメカニズムが十分解明されてはいないが、発達の指標としては一定の役割を果たしうると結論付け、「心の理論」課題と現実の子どもの発達的特徴がどのように関わりがあるのか、もっと研究がなされるべきであると述べている。

 「心の理論」というものの存在を知ったとき、自閉症診断において万能なのではないかと心躍るものがあったが、海外に比べて日本での研究事例が少なく、文献を探してもあまり見つけることができなかった。しかもその多くが医学的研究によるものであり、教育心理学や特別支援教育分野での研究は数えるほどしか見つからなかった。
このレビュー論文を読むことで、「心の理論」を肯定する論文がある一方、反対または疑問視する論文もあり、「心の理論」がまだまだ課題の多い理論であると知ると同時に、自閉症そのものも、まだまだ解明されていないことが多いことを知った。「心の理論」は「誇大広告」だったのか、著者のいうように、現実の子どもの研究が(特に日本国内で)多く報告されることが期待される。

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